「最速〇〇Gbps」に騙されるな! Wi-Fi環境の最適化

「最速〇〇Gbps」に騙されるな! Wi-Fi環境の最適化

【はじめに】

家庭用・企業用を問わず、どのルーターのスペック表を見ても、
「4804Mbps(*1)」「5400Mbps」「<次世代規格>最大9.6Gbps!」といった派手な数字が並んでいます。
でも実際はどうでしょう?

  • 動画がもたつく…
  • オンライン会議が落ちる…
  • ファイルのダウンロードに時間がかかる…

スペック表の “理論値” と、日常の “実感” がまったく一致しません。

スペック表の “理論値” と、日常の “実感” がまったく一致しません。

「ネットワーク機器商品のパッケージなどでよく書かれている “最大〇〇Gbps” とはいったいどういうことか?」「実感としてそんなに速度は出ていないのはなぜなのか?」を技術的に分解し、家庭・オフィスのどちらにも効く「Wi-Fiの実効速度を上げる豆知識」を紹介します。

*1:bps(bits per second)⋯ データ通信速度を表す単位です。ネットワークや通信回線で、1秒間に何ビットのデータを送受信できるかを示します。


【最大〇Gbpsの謎…?】
― シールドルームでようやく理論値の50〜60%という事実 ―

そもそもメーカーが掲げる「最大〇Gbps」というのは、完全に理想条件のもとで測った “理論値”です。

<理論値の達成に必要な理想条件>

  • シールドルーム(電磁波や音などの外部からの干渉を遮断するために設計された実験室)
  • 電波干渉ゼロ
  • 部屋の壁による電波の反射がほぼゼロ
  • 送受信のアンテナが至近距離
  • チャネル幅最大(80/160MHz)
  • クライアントとアクセスポイントの機器両方がフルスペックで通信できる設定・状態にある(アンテナが複数ある場合はすべて利用する等)

これらの条件は、日常では実現不可能と考えられる “作られた環境” です。
このような厳しい制約のある環境でも、”理論値” を達成することは困難です。
通常のデバイスに搭載されている無線アンテナだと、専門的な検証環境を設けても理論値の50~60%が達成できたらよい方です。


【なぜ理論値の達成は難しいのか?】

有線のネットワークだと、ケーブルなどで決まる理論値の9割程度まで速度を出せることも珍しくありません。

一方で、Wi-Fiは圧倒的に失敗しやすい前提で作られた通信方法になります。
Wi-Fiが有線と決定的に違うのは、電波が “誰のものでもない空間に放たれる” という点です。

①無線は「届いたかどうか」を毎回確認する

無線は「届いたかどうか」を毎回確認する

▲データを少し送るだけでも事前のネゴシエーションや到着の事後確認が発生するシーケンスになります。

②干渉が発生すると「再送の嵐」になる

干渉が発生すると「再送の嵐」になる

▲“Acknowledge“(正しく受け取ったことを示す)メッセージが来ないと “Retry” フラグを立てて、同じフレームをもう一度送信することになります。

③“周りがうるさいほど” 送れなくなる

周りがうるさいほど送れなくなる

▲同時に同じ周波数を使った衝突をなるべく回避します。(待機が発生する)

④有線と違って「半二重」である

有線と違って「半二重」である

▲有線ケーブルのように「全二重方式」ではなく、送信と受信に同じ帯域が使われる「半二重方式」です 。
▲「半二重」とは送信と受信を同時に行えず、同じ周波数帯域を交互に使う方式です。
→受信中は送信できず、送信中は受信できません。

⑤マルチキャスト、ブロードキャストは低速レートで個別の機器に繰り返し送られる

マルチキャスト、ブロードキャストは低速レートで個別の機器に繰り返し送られる

▲同じ通信内容でも無線区間が異なると送出がそれぞれに繰り返されます。
また、低速レートで(丁寧にゆっくり)通信される機器が多いです。


【非効率な通信になっていないかを確認する方法】

個人でもできるレベルの簡易な方法と、専門的な調査方法を分けてご紹介します。

●個人レベルの調査方法

✓ リンク速度を確認する

Windowsでの手順:

  1. [Win]キー+[R]同時押しでファイル名を指定して実行を開く
  2. 「ncpa.cpl」と入力しOKを押下
  3. 「ネットワーク接続」で確認したいネットワークをダブルクリックし、「Wi-Fiの状態」を開く
  4. 「速度」の値を確認する
リンク速度を確認する

▲電波が良い状況ではアクセスポイントと端末の互換で最高速(理論値)が表示されます。
この速度が下がっていれば電波環境が悪く、低速レートで(ゆっくり丁寧に)通信しようとしています。

✓ 速度テストサイト

・各事業者から提供されている回線速度測定サイトでもスループットやレイテンシーをある程度確認が可能です。

速度テストサイト

▲「スループットが全然出ない」、「レイテンシーが3桁msで遅延する」が起こる場合は、電波環境により遅延を受けているケースが多いです。

✓ Tracert/Tracerouteなどのコマンドで1HOP目から遅くなることを確認する

Windowsでの手順:

  1. [Win]キー+[R]同時押しでファイル名を指定して実行を開く
  2. 「cmd」と入力しOKを押下
  3. 表示された「コマンドプロンプト」で以下を入力
    tracert <通信先コンピューターのIPアドレス or ホスト名>
Tracert/Tracerouteなどのコマンドで1HOP目から遅くなることを確認する

▲1HOP目から不安定で、遅延が出る場合はWi-Fi通信が問題であるケースがほとんどです。

✓ 無料の調査ツールにて状況確認する

・各事業者から提供されているスマホアプリでも周囲のWi-Fiの混雑状況を確認可能です。

※「Wi-Fi アナライザー」 等の単語で検索すると各種ツールを探すことができます。

無料の調査ツールにて状況確認する

▲周囲にSSIDが多いかWi-Fiが混雑していないかをおおよそ見ることができます。
但し有料ツールと比べて不確実なスキャンをしており、ノイズの大きさまでは数値化できません。

●専門的な調査方法

✓ 専門の電波サーベイツールを活用する

専門の電波サーベイツールを活用する

▲機器の数だけでなく各周波数の混雑の度合いまでヒートマップで表してくれます。

✓「iPerf」等のスループット測定ツールを確認する

「iPerf」等のスループット測定ツールを確認する

✓ Wi-FiのSnifferログを取得してシーケンスやリンク速度を確認する

Wi-FiのSnifferログを取得してシーケンスやリンク速度を確認する

▲専門的なログから、通信でどのような無駄が出ているか、どこに時間がかかっているかを明らかにします。


【チャネルボンディング80MHzの罠】

実際に当社のオフィス環境でスループットが出なかった事例ついてご紹介します。
Wi-Fiには、「チャネルボンディング」という機能が搭載されているのをご存知でしょうか。
メーカーやモデルによってさまざまな呼び方がありますが、20MHz, 40MHz, 80MHzなど周波数に設定する項目です。
こちら理論値は周波数の数字が大きいほど通信速度が出るものとなります。

チャネルボンディング80MHzの罠

ネットワークの速度が出ていないオフィス環境の担当者から相談を受け、次の状況がわかりました。

  • サーベイツールより同じ80MHz周波数の電波の範囲に多数のアクセスポイントがある。
  • Wi-FiのSnifferログからは、電波疎通がなかなかうまくいかず再送を繰り返している傾向がある。

お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、このチャネルボンディングの設定、大きくすれば大きくするほど格段に理論値は上がります。
一方で、周りの機器からの干渉を受ける可能性も上がり、逆にスループットが低下してしまうこともあります。

チャネルボンディング80MHzの罠

結果として、このオフィス環境では80MHzをあえて使う通信要件はなく、20MHz周波数を採用して通信の様子を見ると、安定性が増し、遅延が起きにくくなりました。
追跡調査の結果、このオフィス環境では、ネットワーク構築当初は他の競合ネットワークがさほどなく、当初は80MHzの設定でもスループットが出ていたようです。
しかし、徐々にネットワーク機器が増えることで遅くなっていたようでした。
何か問題が起こった時、このような観点で見直しを入れてみると状況が改善することがあります。

ここに少しマニアックな解説を加えると、2.4GHz帯は5GHz帯に比べて使える周波数帯域が狭い特徴があります。
チャネルの数は現在日本国内では1~13chの13種類が使えますが、隣2つ分くらいのチャンネルは周波数帯域が重複しています。
例えば、チャネルボンディングで40MHz使う場合、2.4GHz帯(13種類のチャネル)の7割が干渉の範囲に入ってしまいます。

チャネルボンディング80MHzの罠

IEEE802.11の仕様では40MHzを他の機器に出させるのを禁止させるメッセージがあり、40MHzの設定をしても20MHzしか使っていないケースも多々あります。

チャネルボンディング80MHzの罠

【さいごに】

当社では、通信の処理シーケンスをTCPより下位のレイヤーまで掘り下げ、スループットの低下要因を明らかにするなど、長年スマートフォン開発の経験してきた知見を活かして対応した実績があります。
近年ではウェアラブル端末やスマートウォッチなど通信をする持ち物がどんどん増えています。そういったもの同士の通信パフォーマンスや接続性に貢献する取り組みを今後も行ってまいりますので、本記事に類似したお悩み、そうでなくとも通信関連のお困りごとがあれば、ぜひご相談いただけますと幸いです。

モバイル事業部
岡田 悠太郎

※本ページに記載されている製品名、サービス名、会社名などは、それぞれの企業の登録商標または商標です。
※本ページではTCP/IPレベルの調査については扱っておりません。

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