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2020年2月5日

製造業向けIoT導入手法のご紹介③

鵜川 裕文 エグゼクティブスペシャリスト/センター長

ネットワーク設計をする

こんにちは、株式会社NTTデータSBCの鵜川です。
前回は、「つなげる」ステップの「どのようにつなげるか決める」まで進めました。今回は、ネットワーク設計をするところから始めましょう。

「つなげる」のステップ

ネットワーク設計の材料

一口にネットワーク設計といっても、どこから始めたら良いかわからないですよね?まずは、設計のインプットである材料を準備するところから始めます。

今回は、前回までの「振動センサーでベルトコンベアの停止をリアルタイムで確認したい」に対しての材料を集めます。

材料を列挙してみます。

見取り図
できるだけ正確な工場内の見取り図が必要です。
現場調査の結果
  • 既設のネットワーク(有線・無線)の設置位置
    要件によっては流用できる可能性があります。
  • ベルトコンベアの場所、事務所の場所(事務所で確認する場合)
  • 既設の電源の設置位置や、容量、余剰のコンセント位置
    電圧や三相、単相なのかも確認しておきましょう。容量に余裕がない場合や、その電源が使えないことで致命的な事象が予想される場合は別途電源工事またはバッテリーでの駆動を検討する必要があります。
  • 温湿度環境や防水、防爆の必要性の有無
    ネットワーク機器の選定に必要な情報です。
  • お客様のセキュリティポリシーの確認
    中には無線LANなどへの障壁が高いお客様もいらっしゃいます。
  • コスト
    PoCにかけられるコストによって、ネットワークの設計も変わってきます。
「リアルタイムで確認したい」の定義
  • リアルタイムとはどの程度のリアルタイムなのか
  • 「確認したい」は「確認できることを実証したい」のか、「現場での実運用を実証したい」のか
将来構想(ロードマップ)の確認
振動で「ベルトコンベアの停止」が検知できた後、「ベルトコンベアの故障」を事前に検知したいなどの要望があるかどうか
PoC期間中の運用方法
特にPoC期間の障害発生時の運用方法

方式の選択

「無線」なのか?「有線」なのか?方針を立てておく必要があります。

集めた「材料」を元に、あるべき方式を決定しましょう。「全てを満たす」方式は絶対にありませんので、選択肢は「重要な要素」から優先度をつけていきましょう。下記は超簡略版ですがロジックは理解いただけるかと思います。

無線か有線かを選ぶ

無線方式のメリット

  • 設置、移動が容易
  • Wi-Fiの場合既存のアクセスポイントが利用できる可能性あり
  • スマートフォンやタブレットでデータ閲覧などを行う場合に便利
  • 普及が進んでいるため、コストが安い
  • 同じく、セキュリティ対策も有線に比べると楽(有線は普通に通信するとデータが平文で丸見えなのです)

無線方式のデメリット

データ欠けの可能性
無線方式、ソフトウェアの設計にもよりますが、有線方式と比較して「データ欠け」の可能性を考慮する必要があります。特にWi-Fiの場合5GHzのW53/W56の帯域はDFS規制が存在し、レーダーを受信すると最低1分間は通信をしない取り決めがあるので考慮する必要があります。

●対策: センサー側で「通信不能期間」のデータをバッファする など

設置方法
設置方法により電波法を考慮する必要があります。
カタログスペックは信用しない
例えば、100メートルがカタログスペックの場合「見通し」であればまあ大丈夫ですが、安定した通信が必要であれば50メートルぐらいで設置するのが良いでしょう。
壁に弱い
電波は周波数が上がれば上がるほど壁による減衰が大きくなります。 壁の材質にもよりますが、無線方式を選択した場合、「実際に電波が届いて通信ができるか」を必ず確認しましょう。
干渉に弱い
セキュリティ上は「大丈夫」でありますが、同じ電波帯域を使う機器、特にWi-Fiのアクセスポイントがたくさんあるような場所については、「空き帯域の調査(サーベイ)」や他の周波数帯域を利用する方式を選択する必要があります。

有線方式のメリット

  • 無線方式と比較して「データ欠け」の可能性が低い(考慮は必要)
  • 電波を出さないので設置方法によらず電波法を考慮する必要がない

有線方式のデメリット

  • ケーブル敷設のコストがかかる
  • 屋外などでは害獣対策も必要になる ※コルゲートチューブなどで対策。

無線方式を選択した場合の方式の選択

さまざまな方式があります、重要なのは到達距離とビットレートです。今回はインターネットなどの外部サービスへの接続を前提としない自営可能なネットワーク設計を行います。

方式 周波数 理論最大
ビットレート
実用的な見通し
最大距離
障害物への
強さ
備考
Wi-Fi IEEE 802.11b 2.4GHz 11Mbps 50m 構内無線LANが利用できる可能性
Wi-Fi IEEE 802.11g 2.4GHz 54Mbps 50m 構内無線LANが利用できる可能性
Wi-Fi IEEE 802.11a 5GHz 54Mbps 50m × 構内無線LANが利用できる可能性
Wi-Fi IEEE 802.11n Wi-Fi4 2.4GHz/5GHz 600Mbps 50m 2.4GHz △ 5GHz × 構内無線LANが利用できる可能性
Wi-Fi IEEE 802.11ac Wi-Fi5 5GHz 6.9Gbps 50m × 構内無線LANが利用できる可能性
Wi-Fi IEEE 802.11ax Wi-Fi6 2.4GHz/5Ghz 9.6Gbps 50m 2.4GHz △ 5GHz × 最新規格
Wi-Fi IEEE 802.11ah Wi-Fi HaLow 920Mhz ~1Mbps ~1Mbps 対応機器が少ない
LPWA版WiFi 国内では法整備がまだ
特定小電力 315MHz/400MHz/
920MHz/1.2GHz
75bps~400kbps 1000m マルチホップ可能
Bluetooth5 Low Enagy 2.4GHz ~125kbps 400m 電池駆動可能 WiFiとのバッティング
Wi-SUN IEEE802.15.4g 920Mhz ~200kbps ~1000m マルチホップ可能
ZETA 429MHz/920Mhz ~600bps ~10Km 電池駆動可能、マルチホップ可能(4HOP)

さまざまな方式がありますが、通信速度と距離を検討し、2つの方式の組み合わせなども検討します。

今回は、「振動センサーでベルトコンベアの稼働状況を確認したい」要望に関しては、例えば「稼働」「非稼働」が1分間隔で取得できれば良いので、方式はどの方式を使っても良いですし、電池駆動ができるネットワークを選択すれば工程が大幅に減らせます。

ただし、「振動センサーのデータをベルトコンベアの故障予知に役立てたい」などの将来構想がある場合、周波数解析の密度にもよりますが、例えば48000KHz(1秒に48000回)で解析したい場合、 1回の振動データの量2byteとした場合、2byte x 48000KHz=96000byte x 8bit=750Kbpsの速度が必要になります。無線の場合おのずとWi-Fiしか選択肢がなくなります。

有線を選択した場合の方式の選択

無線ほどではありませんが、こちらもさまざまな方式があります。無線を選択した場合でも、有線は必ず必要になります。有線と無線の特徴を踏まえて下記のように正解を出していきましょう。例は2区間ですが、両者とも無線にしてしまった場合、将来的に確実に設計変更を余儀なくされます。

有線or無線?

有線接続の種類

方式 理論最大
ビットレート
最大ケーブル長 備考
10BASE-T 10Mbps 100m 既に利用されていない。
100BASE-TX 100Mbps 100m 建屋間などは別途メディアコンバータを利用する
1000BASE-T 1Gbps 100m 建屋間などは別途メディアコンバータを利用する
10GBASE-T 10Gbps 100m 建屋間などは別途メディアコンバータを利用する
HD-PLC
(電力線通信:IEEE P1901.3)
240Mbps
(通常モードの場合)
数百メートル
(環境依存なので実験が必要)
距離やノイズに大きく左右されるが、
同じ分電盤配下でコンセントに余裕があれば
工事不要で設置できる。
マルチホップ可能
RS232C 20Kbps 15m 製造装置などに多用
RS485(422) 100kbps 1200m 製造装置などに多用
RS485(422) 10Mbps 12m 製造装置などに多用

無線と同じく、利用するデータ容量x3倍程度の転送容量があれば安心して利用できます。今回の事例の場合、1000BASE-Tがコスト的にも性能的にも良いかと思います。HD-PLCは非常に魅力ですので、性能評価に今後取り組んでいきたいと考えています。

ネットワーク設計

利用する方式が決まればPoC用に簡単なネットワーク設計図を書きます。 途中で変更した場合も含めて常に最新を保つようにしましょう。

今回は、事務所と工場の接続に「無線バックホール」方式を選択しました。 ネットワークを他の用途にも利用する場合は、タグVLANの利用なども視野に入れて設計していくことになります。

ネットワーク設計の例

次回は、「ハードウェアの選定」「ソフトウェア構成の設計」を行っていきます。お楽しみに。

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