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2019年11月5日

製造業向けIoT導入手法のご紹介①

鵜川 裕文 エグゼクティブスペシャリスト

それ、つながっていますか?

はじめまして、株式会社NTTデータSBCの鵜川です。 開発者歴約30年、現在は新規事業担当をしております。

世の中、IoTAIがもてはやされていますが、既にIoTという言葉は定着し「新しい言葉」ではなくなっています。つまり、IoTは幻滅期をスキップして実用段階に突入したことを意味します。そもそも昔から日本の製造現場では生産効率を上げるためにデータを取得、活用するという行為が行われていたので、そこにIT技術が加わっただけともいえます。

IoT技術の導入の障壁として、日本の製造現場ではOT(Operational Technology)が極限まで進化しており、既存のOTIoT導入の妨げとなっている側面もあります。
と、現状を語っていても仕方がありませんので、これまでの経験をもとに、実際に製造現場へ弊社がIoTを導入する手法を数回にわたって説明させていただきます。

対象読者は、

  • これからIoTを導入したい、または「しないといけない」方
  • IoT化の取り組みを行ったが、結果に「もやもや」としている方
  • 製造現場を管轄する立場にあるが、現場の意見を大切にしたい方

となります。よろしくお願いします!

IoTについて最初に押さえておきたいこと

用語の統一と整理は非常に大事な事なので、一旦「本コラムでの解釈」を整理させていただきます。

  • IoTとは、OT(Operational Technology)IT(Information Technology)を持ち込むことである。
    • IoT(Internet of Things:モノのインターネット)です。あらゆる「モノ」をインターネットにつなげること。
    • 最近では、モノではなく「人とインターネット」をつなぐIoP(Internet of People)なる言葉も出てきています
  • IT製品の能力の向上、小型化、ネットワーク化、そして何より低コスト化が進んだことで導入が加速。
  • 製造業のOTに「メトカーフの法則(ネットワーク通信の価値は、接続されているシステムのユーザー数の二乗に比例する)」を適用することでさらなる生産効率の向上を狙うもの。

「IoTは正にOTとIOの融合」

AIについて最初に押さえておきたいこと

IoTと共に、経営層が「わが社にも入れろ」というのがAI。しかし現実は……

  • 「汎用的なAI」なる物は*現時点*で存在しません。シンギュラリティが始まる2045年まで待ちましょう。
  • 一方、画像の認識や分類をすることや、「翻訳などの特化した領域におけるAI」については実用的な物が普及しつつあります。しかし「わが社に入れる」には地道な作業と相当なコストがかかることを理解しておきましょう。※別記事で書こうと思います。
  • 「それ、AIでできます!」と言われたら、実際の現場の運用のことをどこまで考えているのか疑ってかかりましょう。現場が使えなければ意味がないのです。

OTって何?

IT業界の人間は横文字と略語が大好き。制御・運用技術をOperational Technorogy(OT)と呼んで格好良くしてみただけです。

  • PLCや制御盤、警報盤、SCADA、DCS、CNCなどの装置や、それのプログラムや運用技術。つまり、現在、製造現場で活躍している仕組みのことを言います。
  • 製造現場は自身が作り上げたOTに自信があり、かつ極限までチューニングされていることが一般的です。故にIoTのためにオペレーションを変えることを極度に避ける傾向があります。IoTはOTに「寄り添って」はじめて成り立つということを理解しておきましょう。

IoTを導入するステップについて

IoTをPoC(Proof of Concept:概念実証)から導入するステップについて、大きく3つの段階に分けて考えます。

それぞれのステップにおいて、開発プロセスが存在することをお忘れなく。そして「見える化」するPoCに関しては、どんなPoCにおいても約3カ月を目途にしましょう。

IoT化のステップ

「つなげる」の中身

「つなげる」ためのステップを説明します。

ポイント

  • 同じ製品を作っている現場でも、場所が違えば装置もお困り事も違います。
  • へたをするとライン毎に違うことが考えられます。
  • そして何より「稼働中」であることが課題になります。

「つなげる」ために、下記のステップが必要になります

「つなげる」ステップ

「要望を聞く」IoTは目的ではなくて手段

その現場では「何を得たい」のか?それが一番大事なのです

製造現場の代表的な「得たいこと」

  • 製造工程における*手作業の*工程を減らし、コスト削減、働き方の改善をしたい
  • 製品の品質の向上を図りたい
  • 稼働状況を本社で確認したい
  • 機器の故障を事前に検知したい
  • 日々の点検業務の手間を減らしたい
  • 製品別の利用エネルギー(ガス、エアー、水、etc.)を確認し詳細な原価を算定したい

「要望を聞く」

  • 「要望を聞く」フェーズでは、「得たいこと」の中から1つ、もしくは2つを選びます。できれば1つにしてください。増えれば増えるほど、成功する確率が減ります。二兎を追う者は一兎をも得ず。スモールスタートが必須です。
  • 「要望を聞く」フェーズで、「得たいこと」がたくさんある場合、それぞれに紐づく製造工程で「見える化」したい物をリストアップし、「優先順位」をつけます。トップの「得たいこと」のみを選び、後は捨てましょう。スモールスタートで結果を出し、現場の信頼を得なければ「PoCだおれ」まっしぐらです。

「現場調査」IoTは会議室に入れるんじゃない!現場に入れるんだ!

  • 「現場百遍 」という言葉ご存知ですか? IoTもこれにつきます。
  • 仕事を始める前に、1回。要望を聞くタイミングで1回。設計前に1回。設置時に1回、稼働開始後に1回。3カ月のPoCの期間中、5回以上は現場での「観察」「会話」「確認」が必要です。
  • そして、現場の「許可」を必ず取る必要がありますが、下記「三種の神器」をお忘れなく。

カメラ、スマホ

絵心が必須。動画が撮影できると良いでしょう。
対象の部品や機構だけを撮影しても、後でなんだかわかりません。全体を俯瞰で撮影しましょう。

メジャーやノギス

もしくはそれにかわる物

調査用のセンサー

温度などは、どこの現場でも必要なデータ。手持ちで持参できる物は持ち込んでその場で調査を行います。

  • おすすめはスマホ用サーモグラフです。
  • 校正済みの計測機器もあると有用です。

「現場調査」

「観察」「確認」で大事なこと

  • 現場の「ルール」の確認。
    PoCで事故や製品事故を起こしてしまっては本末転倒です。一番大事。
  • 機器の「型番」の確認。
    「得たいこと」とは関係がないものも含めて「型番」が確認できる物は全て確認します。
  • 「サイズや設置位置」の確認。
  • 「実際に動いている機器」の観察。できれば動画も撮影しましょう。
  • 設置場所の「環境」の確認。防水防塵の程度、現場で持ち込みが禁止されている素材などの確認。

何を「見える化」するか決める

次回以降、具体的に

  1. 食品製造ラインへのIoT導入
  2. 畜産業へのIoT導入

などのPoC事例をご紹介させていただきます。

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