2019年12月4日
製造業向けIoT導入手法のご紹介②
鵜川 裕文 エグゼクティブスペシャリスト/センター長
何を「見える化」するか決める
こんにちは、株式会社NTTデータSBCの鵜川です。
前回は、「つなげる」ステップの「現場調査」まで進めました。
今回は食品工場を例に何を「見える化」するかを決めるところから始めましょう。
「つなげる」のステップ
「見える化」という言葉は、「目で見える管理」のことで、大手自動車メーカーによる業務の改善活動の中で初めて登場しました。
前回、「要望を聞く」で書きましたが、「誰が」「何を得たいか」によって何を「見える化」するかが変わってきます。
具体例としていくつか書いてみます。
- まずは「見える化」だけで良い物(見える化を得たい物)
- ラインの稼働状況をリアルタイムで確認したい
- 装置の点検業務の手間を減らしたい
- 製品別に利用エネルギーを確認したい
- 「見える化」の先に「得たい物」がある場合
- 装置の故障を事前に検知したい
- 製品の品質向上を図りたい
- 製造工程における*手作業*の工程を減らしたい
例)ベルトコンベアの稼働状況をリアルタイムで確認したい場合
対象機器 | 得たい物 | センシング対象 |
---|---|---|
ベルトコンベア | 稼働状況をリアルタイムで確認 | 振動 |
電流値 | ||
通過間隔 | ||
通過時間 | ||
PLCの接点のON/OFF |
果たして得たい事は本当に「稼働状況をリアルタイムで確認したい」だったのか?
現在、「操業中にベルトコンベアが停止」した時に、それをどう発見しているかとその後どうしているか?が重要な要素になります。
操業中にベルトコンベアが停止した場合の対応について現在行っている事例
事象 | 発見方法 | 対応 | 防止策 |
---|---|---|---|
操業中にベルトコンベアが停止 | 1時間に1回の見回りで確認 | 駆動ベルトの確認、モーター故障の確認、取り換え |
|
上記のように現場の状況を整理すると、実は「稼働状況をリアルタイム」に把握したいのは、結果として上記「1時間に1回の見回りの手間を省きたい」ということがわかり、その先に「故障前に修理をしたい」「できるだけ部品を長く使いたい」などの目標があることがわかります。今回は「1時間に1回の見回りの手間を省きたい」を目標とします。
昔の人は偉い!「千里の道も一歩から」
1時間に1回の見回りの手間を省きたい場合、それは本当にセンサーIoTで解決すべきものでしょうか?
さまざまな手段を列挙してみます。
手段 | 確認方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
監視カメラ | 事務所で確認(目視) | いつでも稼働状況が見られる | 見逃しの可能性 |
監視カメラ | AI画像処理による確認(通知) | 未来的、見逃しがなくなる | コストパフォーマンスに疑問 |
振動センサー | 事務所で確認(閾値による通知) | コストパフォーマンスが高い | 設置場所に工夫がいる |
電流センサー | 事務所で確認(閾値による通知) | コストパフォーマンスが高い | 故障がわからない可能性、設置時にラインを停止させる必要がある |
距離センサー、近接センサー (通過時間) |
事務所で確認(閾値による通知) | 搬送物そのものの動きが追える | 搬送物の間隔や搬送物そのものが変わる場合には閾値の設定が難しい |
PLCからの情報を参照(接点、レジスタ) | 事務所で確認 | PLCを利用するので安心 | ネットワークモジュール追加コストと、ラダーの把握が必要。接点のみなら簡単にいける方法も |
このようにまとめると、それぞれの手段のメリット、デメリットが把握できますね。振動センサーかPLCからの情報取得が有力候補になります。
※AI画像処理に関してはEdge AIアクセラレータの進化により、数年後には一番コストパフォーマンスが高い手段になる可能性があります。
どのように「つなげる」か決める
単純につなげるだけでは意味がありません。前章のベルトコンベアの例ですと、
事象 | 発見方法 | 対応 | 防止策 |
---|---|---|---|
操業中にベルトコンベアが停止 | 1時間に1回の見回りで確認 | 駆動ベルトの確認、モーター故障の確認、取り換え |
|
「操業中にベルトが停止」したことがリアルタイムでわかった場合、「修理」にいかに早くつなげるかが考えられないと稼働率は向上しません。現場では「おお!事務所で見えた!これでいいや」で満足される方が多いのですが、本当にそうでしょうか?せっかくデータが取得できるようになるのですから、今後いろいろな発展が考えられます。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
事務所のPCで見られる | 見回りの手間が省ける | 見逃しの可能性 |
事務所のパトランプに通知 | 同上+見逃しが減る | 事務所に人がいない場合 |
スマートフォンやタブレットに通知(専用アプリ) | 同上+事務所にいなくても確認できる | システム構築のコスト(アプリ開発込み) |
スマートフォンやタブレットに通知(SNS) | 同上+事務所にいなくても確認できる | システム構築のコスト(API連携対応) |
簡単に例を挙げてみましたが、「つなげた」後に何を目指すことができるのか? という観点で将来のことも考えて検討します。
その他「つなげる」時に必ず検討する必要があること(振動センサーでベルトコンベアの停止をリアルタイムで確認したい場合)
- センサーデータの取得間隔
- 10秒に1回?1分に1回?データ量とのトレードオフになります。頻度を高くした場合「停止前の予兆検知の可能性」も出てきますので、十分に検討しましょう。
- ベルトコンベアの稼働時間帯
- 一日の操業時間、メンテナンスの頻度と方法などを確認します。「センサーをメンテナンスの度に取り外す」などといった運用手順の増加は現場では受け入れられませんし、敬遠されます。
- 設置位置や個数
- 3軸のセンサーなどで振動を取得する場合は、設置方法と位置や方向をきっちり決めるべきです。取り付け方によってデータに違いが出てしまっては意味がないからです。
- 電源
- センサーデータの取得間隔により電池駆動で数か月もつのであれば、できるだけそちらを選びましょう。そうではない場合、大抵は電源工事の必要があります。火事などの原因になりますので可能な限り「テーブルタップ」などでのタコ足配線は避けるようにしましょう。
- センサーの精度の要求
- 今回の例では問題にはなりませんが。例えば、「温度計の精度は±何パーセントが必要なのか?」などの確認は絶対に必要になります。
ネットワークを考える
要求されるデータの頻度や、設置位置、電源、精度などが決まれば、それをどうやって事務所で見られるようにするかを考えていきます。
次回をお楽しみに。